研究内容
高次認知機能と脳損傷の関係性に関する研究
主な研究の紹介
Effects of insular resection on interactions between cardiac interoception and emotion recognition
Yuri Terasawa, Kazuya Motomura, Atsushi Natsume, Kentaro Iijima, Lushun Chalise, Junko Sugiura, Hiroyasu Yamamoto, Kyohei Koyama, Toshihiko Wakabayashi, Satoshi Umeda
Cortex 137 271 - 281 2021年2月
この研究では、名古屋大学 大学院医学系研究科脳神経外科学の 本村 和也 准教授らの研究グループとともには、脳腫瘍患者に対する摘出手術の前後に感情認識能力の検査を行い、この能力の低下が身体内部の 状態の変化を知覚できる能力(内受容感覚)の低下と関連していることを明らかにしました。
脳と心の機能の関係性については様々な研究が進められていますが、実際にある脳領域を損傷や摘出した場合に、嬉しい、悲しい、腹立たしい、といった自己の感情の認識 がどのように変化するのか?という問いの答えは、未だに分かっていません。
これまで の研究結果から、心拍や呼吸といった身体内部状態の変化の知覚に深く関連する島皮質 (島回)への刺激や切除が、怒りなどの興奮性の感情の認識に変化をもたらすことは示 されてきましたが、その理由は明らかではありませんでした。 本研究では、島回に係る脳腫瘍患者 18 例に対して、摘出手術の前後に表情認識課題 (顔写真から表情を認識する課題)と内受容感覚を計測する課題を実施しました。
術前 と術後の両課題の検査結果を比較した結果、怒りや喜びなどの感情認識能力の低下と内 受容感覚の低下の間に統計的に意味のある関連が見られました。これは、島皮質が身体 内部からの情報である内受容感覚の神経基盤として機能し、怒りや喜びなどの感情認識 を支えていることを示すとともに、ドキドキやソワソワといった身体の感覚が豊かな感 情を体験するために不可欠であることを示唆しています。本研究の結果から、島周辺領 域の外傷性の変化や加齢性の変化によっても、感情の感じ方が変わる可能性が考えられ ます。
この研究に関するプレスリリースはこちらにあります。